
着した油がそこに生息する生物や生態系に多大の被害をもたらすことが懸念されている。また、そうした事故に対しての基本的な備えがないことや後手にまわりがちな被害防止対策が問題となっている。ノルウェーでは、さきに3.7や3.14、3.16でその活動の一部を紹介したように。大陸棚の油田やパイプラインからの油の流出事故あるいは掘削井戸から排出される産出水の海洋環境や生物に対する影響を、できるだけ未然に防止しまたその被害を軽減するために、基本的なモニタリングを行う一方で、油の漂流予測あるいは分散剤による処理効果に関する現場実験、油の化学成分の影響に関する生物試験、各種の油の性状に関するデータベースの整備、OSCARなどによる被害防止戦略の検討とその検証実験が実施されている。さらに魚類資源への影響に関しては、1985-1991年に漁業省海洋研究所のプロジェクト(卵・仔稚魚プログラム;HELP)で、油による汚染の影響評価の基礎資料としてノルウェー周辺海域の主要な漁業資源生物の卵・仔稚魚期の分布生態に関する総合的な整理がなされている。将来起こり得る問題を見通しながら科学的なデータを日頃から蓄積しすぐに利用できるようにしておくことの重要性をあらためて認識させられる。 わが国の環境保全・改善に関する技術水準は相当に高いと思われるが、その技術の運用についてはほころびた所に継ぎを当てることに追われているのが実状で、どのような環境のあるべき姿をめざしているのか環境整備の方向性や全体像は必ずしも明確でない。油の流出事故に際して垣間みられたようにその基盤はまだ貧弱である。ノルウェー理工大学で「海洋生態系の機能の回復と持続的な利用に向けて」と題して講演をした際にも、長期的な展望に立ってこの問題に取り組むことの必要性がノルウェーの研究者との討議の中でくり返し強調された。わが国の環境保全や改善の長期的・総合的なビジョンをまず明確にしそれを共通のものとしながら、各方面でその目標実現に向けて基本的な戦略を練り上げておくことがいま強く求められているように思う。 この報告を終えるにあたり、本調査の遂行に際して種々の便宜をはかっていただきました日本海洋協会、外務省海洋課、在ノルウェー日本国大使館、ならびに調査計画や報告のとりまとめにあたって有益な助言を賜りました奈須紀幸委員長はじめ海洋環境保全・改善調査研究委員会の委員各位に深く感謝申し上げます。また、ノルウェーにおける訪問日程等の連絡・調整の労をとっていただきましたノルウェー漁業省海洋研究所のastevedt博士とSundby博士、トロムソ大学のWassmann教授、ノルウェー理工大学で2度にわたって講演する機会を設けていただきましたBalchen教授とOlsen教授、さらにノルウェーで収集した資料・文献リスト等の作成を手伝っていただきました東京大学海洋研究所の阪下考研氏ほか、関係各位に厚くお礼申し上げます。
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